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「 坊赤 」
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坊赤
泣いているように見えたんだ。 


肩を押してみた。
アカギの口にくわえられた煙草が、宙をまった。
その細い骨ばった肩は意外なほどあっさりと後ろに倒れて、和也はどうすればいいか分からない。自分で押したというのに。途方にくれたように目じりを下げる。だって、
見上げてくる瞳がまるで責めているようで。
「…………痛いんだけど」
抑揚のない声に今、アカギを押し倒しているのだと気づいた。言われなきゃわからなかった。和也はそんなつもりなど全くなかったのだ。ただ力をこめただけ。いや、それほど力をこめただろうか。いくらアカギが華奢だといっても、あれくらいの力で倒れるものだろうか。
「……なんっ、」
相手におされる、という行為に対して、アカギがなんの抵抗も示さなかったのだと和也は気づく。普通は、そうじゃないだろう。いや、アカギが普通なわけがなかった。わかっていてもどうしようもないのだ。
だって、和也は本当にこう言うことを、したかったから。そうだ、そう言うつもりだったのだ。
押し倒した先の行為を和也が望んでいたから。抵抗してくれればよかった。そうすれば踏みとどまれたのだ。けれどアカギは抵抗しない。力を入れない。ただ煙草のなくなった口元を寂しそうにしている。それすらも和也の一方的な思い込みかもしれない。責めていたような瞳も、本当は、
「………っ」
アカギの腕をつかんで、先ほど床に落下した煙草におしつけた。じゅう、と肉の焼ける音がしてアカギの表情がゆがむ。火が消えても押しつけ続ける。「ぐっ……」脂汗をたらすアカギを見て、和也はそれでも絶望せずには居られなかった。
アカギの目は、責めることも、受け入れることもしていなかったから。


泣いているような、恋だった。
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